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知取気亭主人の四方山話

『冷蔵庫で芽生えた栗のドラマ(第三幕)』

2026年10月7日

2022年の四方山話で、第985話『冷蔵庫で芽生えた栗のドラマ』(6月15日)を書いた。出来事の一部始終に係わった妻を脚本家に、そして出来事をドラマに見立て、第一幕、第二幕として、我が家の冷蔵庫での珍発見をきっかけに展開された思わぬ出来事を書いた。ひょんなことで見つけた栗の芽生えから、多くの人の手を経て、大地に戻り植えられるまでを、時系列に書き並べた内容だ。そして話の結びは、「第三幕の脚本はまだ書かれていない」として、含みを持たせる内容になっていた。今回の話は、4年の時を経て展開された、心温まるその第三幕を紹介する内容だ。要するに、第985話の続きである。したがって、今回のこの第三幕を良く理解するうえでも、その前提となる第985話を読んでいただきたい。とは言え、面倒くさがり屋の方もいるだろう。そこで念のため、第一幕、第二幕を簡単に振り返っておく。

今から6年前(2020年)の春、初孫が4年生の時だった。妻が、冷蔵庫の野菜室に保管していた栗から芽が出ているのを見つけた。何事も面白がる妻、空いている卵のパックにその芽吹いた栗を入れ、『ちょうど発芽の勉強をやっているころだというから、みんなで観察もできるし、学校で育ててみたら?』と初孫に持たせた。先生も大いに喜び、プランターに植え替え、みんなで一生懸命世話をしたらしい。生徒が学校に通わない休みの時など、担任のA先生が自宅に持ち帰りずっと世話をしてくれたという。何とも素敵な先生だ。

ところが、2年経った2022年の夏の終わり頃、突然学校から、「プランターではもう育てられないほど大きくなり、学校ではお世話できません」との言伝があった。妻が『学校の庭に植えられないのかな?』と初孫に訊いたところ、『虫が付く木は植えられない』と言われたとの返事。折角膝を超すほどまでに成長したのに捨ててしまうのは忍びない、とあれこれ考えた挙句思いついたのが、我が家と小学校の中間に、前年の暮れに開所したばかりの児童養護施設に移植させてもらうことである。と、ここまでが第一幕だった。

続く第二幕は、養護施設の空き地に移植するまでを、許諾してもらうために行った理事長とのやり取りを中心に書いた。児童養護施設のことを思い立ったが吉日とばかりに、すぐに理事長(我が家の菩提寺の住職)に連絡をとり、事のいきさつを説明して移植をお願いした。そして、快諾してくれた。しかも移植時には、造園のプロまでお願いして、運搬から植樹まで手際よくやってくれた。完璧だ。後で理事長から、「…ご縁頂いた木がどんな風に成長し、どんなドラマを生み出していくのか、期待に胸を躍らせています」と書かれた素敵な手紙を頂戴していたが、果たして、胸躍らせた期待に恥じないような素敵なドラマが第三幕に用意されていた。

愈々第三幕の幕開けだ。早いもので、今年は第二幕からもう4年が経つ。この4年間ずっと気になっていて、3番目の孫を“お迎え”に行った時などには、「どうなったかな?」と、それとなく見守っていた。そして、年々大きくなっていくのを見て、安心していた。ただ、実を付けるまでにはまだまだだな、と思っていた。加えて、孫が成長するにつれ、お迎えの頻度も歩くコースも変わり、目にする機会が少しずつ減ってきていた。そんな時だった。先週、理事長から突然連絡を頂いた。『移植した栗の木の1本が実を付けました!』という嬉しい知らせだ。それを聞いて、応答する私の声は一段と大きくなった。理事長の声もなんだか弾んでいる。続けて理事長、『ついては、子供たちと一緒にお礼に伺いたい』と言う。そんな嬉しい報告を妻に伝えると、うわぁ、と歓声を上げた。満面の笑みだ。

そしてその日の夕方、理事長と職員の方、そして年中さんと小学2年生の可愛らしい女の子が二人、採ったばかりの栗の実を携えて訪ねて来てくれた。その可愛らしい笑顔と素敵なお話に、移植をさせてもらった当時を懐かしく思い出すとともに、なんだか胸が温かくなってきた。栗と言えば『さるかに合戦』の中で猿を懲らしめる勇ましい姿ばかりを思い浮かべてしまうが、こんな素敵な出会いを作ってくれることもあるのだと、感激もひとしおだ。

ひょっとしたらこの第三幕、第二の命を輝かせることも無く捨てられるところだった栗たちが、再び“成長と実り”という命の営みを謳歌できる、そんな千載一遇のチャンスを与えてくれた妻と児童養護施設の皆さんへの、心づくしの恩返しだったのかもしれない。そう考えると、なんだかホンワカするなぁ!


【文責:知取気亭主人】

主役(?)の栗の木(写真提供:理事長)


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