1.はじめに
自然災害などを題材とした小説を皆さんは何冊位読まれていますか。防災対策がかなり進んだ現在では、家族を含めて自然災害で被災する可能性は少なくなっています(地球の温暖化によって、豪雨災害が激化している面もあります)。しかし、実際に自然災害に直面したとき、私たちはどう対応したらよいのでしょうか。豪雨・地震・火山噴火・融雪・天然ダム決壊などを誘因として、世界各地で土砂・洪水災害は頻発しています。これらの土砂災害をモチーフとした小説を読むことによって、災害対応を疑似体験できます。
土砂移動(地すべり・崩壊・土石流など)が発生しても、土砂の移動領域に居住地がなければ、災害は発生しません。自然災害は単なる自然現象ではなく、土砂災害と被災者との位置関係と、背景としての社会状況や防災力と関連して発生します。自然災害に直面した時、私たちはどのように行動すればよいのでしょうか。
2.災害関連小説のレポート課題と講習会などでのアンケート
井上は、非常勤で「災害論」などの授業を担当していました(70歳まで)。最初の授業では、以前の受講生が今までに読んだことのある自然災害関連の小説・題名の一覧表を示し、読んだことのある小説に○を付けて貰い集計しました。しかし、20歳前後の学生たちはほとんど小説を読んでいないというのが現状でした。
授業では、大規模な土砂災害事例を紹介すると同時に、これらの災害を題材とした小説などを紹介し、読むことを勧めました。最終のレポートの課題として、「授業で紹介した災害関連小説などを1冊読んで、主人公(または著者)が自然現象と災害をどのように捕えていたか、あなたの感じ取ったことを書いて下さい」という課題を出しました。
若い学生達ですから、自分や家族の被災体験はほとんどありませんが、小説を読むことにより、様々な自然現象と被災事例との関係、その後の涙ぐましい復旧・復興への努力について感想を書いてくれました。20歳前後の学生レポートには参考となることが多くありました。
拙著(2006):建設技術者のための土砂災害の地形判読実例問題 中・上級編の、コラム1 土砂災害などを題材とした小説(p.20)で、自然災害などを題材とした小説を紹介し始めた経緯が記されています。井上は東京農工大学農学部地域システム学科で『応用地学』、東京都立大学理学部地理学科(首都大学東京都市環境学部地理環境コース)で『自然地理学特殊講義―V』の非常勤の授業を行い、大規模土砂災害の話をするとともに、災害小説に関するレポート課題を出していました。
3.災害に関連する小説の集計結果
平成15年(2003)〜 17年(2005)の授業で紹介した本は18冊で、レポートの集計結果は126人(冊)でした。以下にその結果を示します。
- 31人 石黒曜(2002):死都日本,講談社
- 19人 幸田文(1994):崩れ,講談社文庫
- 19人 三浦綾子(1977):泥流地帯,(1979):続泥流地帯,朝日新聞社
- 15人 池澤夏樹(1993):真夏のプリニウス,中公文庫
- 10人 白石一郎(1989):島原大変,文春文庫
- 8人 立松和平(2003):浅間,新潮社
- 6人 加藤薫(1998):大洪水で消えた街―レイテ島八千人の大災害―,草思社
- 6人 新田次郎(1971):怒る富士,上・下,文春文庫
- 4人 柳田邦男(1981):空白の天気図,新潮文庫
- 2人 Dick Thompson(2000),山越幸江訳(2003):火山に魅せられた男たち
―噴火予知に命がけで挑む男たち―,地人書館
- 2人 川村たかし(1987):十津川出国記,北海道新聞社
- 2人 石黒曜(2005):震災列島,講談社
- 1人 童門冬二(1996):小説二宮金次郎,上・下,人物文庫
- 1人 小松左京(1973):日本沈没,光文社文庫
- 計126人
拙著(2013):関東大震災と土砂災害では「コラム4 自然災害などを題材とした小説」(p.195-198)として、平成15年(2013)7月25日現在の著者・題名一覧表が示されています。全部で87冊の本が紹介され、学生レポートが588人(冊)、講習会などでの集計3837冊、計4425冊でした。
土木情報サービス・いさぼうネットの『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』のシリーズコラムは、2015年4月から開始され、現在までにコラム103まで公開しました。これらのコラムでは、大規模土砂災害の事例を説明するとともに、これらの災害に関する小説を紹介してきました。
いさぼうネットの教育支援の「いさぼうアンケート」では、平成21年(2009)1月29日、平成26年(2014)7月3日、令和4年(2022)10月25日、令和7年(2025)2月7日の4回、災害情報に関するアンケートを実施して頂きました。これらのアンケートの結果は、いまでもいさぼうネットの『教育支援 いさぼうアンケート』で閲覧できます。
平成11年(2009)のアンケートでは、投票者数207人、総投票数491冊で、最も読者数が多かったのは、小松左京(1973)『日本沈没』(上・下)の78人で、2番目は石黒曜(2002)『死都日本』の55人、3番目は大木正次(1967)『黒部の太陽』の34人でした。
平成26年(2014)のアンケートでは、投票者数100人、総投票数389冊で、最も読者数が多かったのは、新田次郎(1977)『剣岳・点の記』の36人、2番目は小松左京(1973)『日本沈没』(上・下)の28人、3番目は吉村昭(1967)『高熱隧道』の25人でした。
令和7年(2025)のアンケートでは、投票者数31人、総投票数174冊で、最も読者数が多かったのは、小松左京(1973)『日本沈没』(上・下)の17人、2番目は吉村昭(1967)『高熱隧道』と新田次郎(1977)『剣岳・点の記』の9人でした。
表1 自然災害を題材とした小説の著者・書名の順位一覧表(2025年8月31現在)
表2 自然災害を題材とした小説の著者・書名の年代順一覧表(2025年8月31現在)
一般市民や技術者を対象とした講習会などでも同様の災害小説の一覧表を示し、読んだことのある本の左欄に○を付けてもらい集計しました。また、応用地質学会誌(2016)57巻5号でも「地質アラカルトのジオ・メリット」(30)で、「自然災害などを題材とした小説は読まれているか」という記事を投稿しました。
拙著(2018,2019,2020)『歴史的大規模土砂災害地点を歩く』(T,U,V)では、出版時にまとめられている「自然災害を題材とした小説の著者・書名、読者数」を示しています。
そのTの一覧表では、2018年3月6日現在で、117冊、学生レポート744冊、講習会(一般)7897冊、計8641冊となっています。
そのUの一覧表では、2019年6月30日現在で、121冊、学生レポート771冊、講習会(一般)8301冊、計9072冊となっています。
そのVの一覧表では、2020年2月14日現在で、128冊、学生レポート800冊、講習会(一般)9339冊、計10139冊となっています。
いさぼうネットのコラム80では、令和4年(2022)3月27日現在で集計した結果を示しています。その結果、集計された小説などは128冊で、学生レポート800冊(大学の集中講義は前年で終了しています)、講習会9827冊、計10627冊となりました。
その後も講習会といさぼうネットのアンケートを続けていましたが、令和7年(2025)8月31日で集計作業を終了することにしました。その結果、集計できた小説などは128冊で、学生レポート800冊、講習会11016冊、いさぼうネットでのアンケート767冊、計12583冊となりました。
最終の集計結果は、表1(読者の多い順)、表2(年代順)として示しました。
表が大変細かいので、読者の多い順に20位までを以下に示します。
- 1 小松左京(1973):日本沈没,学生R92,講習11114,アンケート52,計1258
- 2 新田次郎(1977):剣岳・点の記,学生R17,講習549,アンケート35,計601
- 3 宮沢賢治(1931):グスコーブドリの伝記,学生R23,講習514,アンケート28,計565
- 4 幸田文(1991):崩れ,学生R69,講習463,アンケート22,計554
- 4 石黒曜(2002):死都日本,学生R78,講習451,アンケート25,計554
- 6 谷崎潤一郎(1939):細雪,学生R3,講習411,アンケート18,計432
- 7 吉村昭(1967):高熱隧道,学生R6,講習374,アンケート33,計413
- 8 木本正二(1967):黒部の太陽,学生R7,講習353,アンケート19,計379
- 9 三浦綾子(1977):泥流地帯,学生R56,講習248,アンケ―ト21,計325
- 10 石黒曜(2004):震災列島,学生R34,講習269,アンケート16,計319
- 11 吉村昭(1973):関東大震災,学生R6,講習285,アンケート17,計308
- 12 鴨長明(1212):方丈記,学生R8,講習257,アンケート24,計289
- 13 小松・谷(2006):日本沈没第二部,学生R1,講習243,アンケート8,計252
- 14 新田二郎(1971):昭和新山,学生R1,講習230,アンケート15,計246
- 15 新田二郎(1974):怒る富士,学生R16,講習215,アンケート9,計240
- 16 新田二郎(1969-73):武田信玄,学生R0,講習211,アンケート7,計218
- 17 柳田邦男(1975):空白の天気図,学生R19,講習181,アンケート10,計210
- 18 吉村昭(1970):海の壁−三陸海岸大津波,学生R6,講習170,アンケート13,計189
- 19 白石一郎(1985):島原大変,学生R28,講習150,アンケート6,計184
- 20 高嶋哲夫(2003):M8,学生R30,講習121,アンケート9,計160
いずれも有名な小説なので、読まれた方も多いと思います。
表1と表2をご覧になって、これから読んでみたいと思う本は見つかりましたでしょうか。もし気になる本があれば、図書館などで借りて読まれることをお勧めします。
アンケートの回答結果の整理をしたところ、一覧表にはない本を欄外に書き込んで頂いている方がおられました。表3はこれらを一覧表としてまとめたものです。私も時間を見つけてこれらの本を少しずつ読みたいと思います。
また、東京都千代田区にある砂防・土砂災害の専門図書館「砂防図書館」(砂防会館別館3階)では、これらの本を陳列したコーナーを設けています。ぜひ一度ご来館の上これらの本をご覧下さい(基本的に館外への貸し出しは行っておりません)。
さらに表1〜表3には掲載されてなく、砂防図書館で所蔵されている本を表4に示しました。
表3 講習会などで新たに紹介して頂いた本の著名・題名・出版社一覧
表4 表1〜 表3になく砂防図書館に蔵書されている本
4.災害小説の集計結果
表5は、表2をもとに、10年毎の年代順に災害小説の発行数と読者数を整理しました(2022年3月27日現在)。図1は表5をもとに、10年毎の発行数と読者数を円グラフとしたものです(2025年8月31日現在)。表5と図1によれば、10年毎で発行数は最も多かったのは、2000年代で42冊(32.8%)、次に多かったのは1970年代で25冊(19.5%)でした。
表5 10年毎の災害小説の発行数と読者数(2025年8月31日現在)
図1 災害小説の10年毎の発行数(2022年3月27日現在)
図2は学生レポート(2022年3月27日現在)、図3は一般(講習等)(2025年8月31日現在)による読者数を示しています。学生レポートでは2000年代に発行された本が307冊(38.4%)で最も多く、次に1970年代に発行された本が225冊(28.1%)となっています。それに対し、一般(講習等)では1970年代に発行された本が4138冊(35.1%)と最も多く、次いで2000年代に発行された本が2592冊(22.0%)、3番目に1960年代に発行された本が1569冊(13.3%)4番目に1930年代が1142冊(9.7%)となっています。20歳前後の学生は古い時代の小説はあまり読まず、新しい小説を手に取って読んでいるようです。
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図2 学生レポートによる10年毎の読者数 (2022年3月27日現在)
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図3 一般(講習等)による10年毎の読者数 (2025年8月31日現在)
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5.むすび
井上が22年間にわたって続けてきた災害小説関連の集計結果を説明してきました。表1と表2は2019年までで終わっていますが、表3と表4に示したように、2020年以降も激甚な災害は各地で発生しており、災害関連小説も増えています。
携帯電話とメールなどに時間を取られることが多くなりましたが、これらの本を読まれることをお勧めします。
災害関連小説の内容が防災対策の検討に少しでも役立てば幸いです。
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