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近年、建設資材の価格高騰や労務費の上昇が続くなか、斜面防災工事の代表格である地山補強土工(鉄筋挿入工)および地すべり抑止杭工においても、積算基準の改定や単価の更新がなされています。令和8年度においては、対象工種によっては工事費が最大約80%増加する事例も確認されており、発注者・設計者・施工者いずれの立場においても、最新情報への対応が求められています。本稿では、両工種における最新の積算動向を整理し、実務上の留意点を解説します。
1.積算を取り巻く背景 ――資材・労務費の上昇
建設工事の積算において、近年、大きな影響を与えているのが原材料費の高騰と労務単価の継続的な上昇です。鉄鋼材料の国際的な需給逼迫、燃料費・輸送費の増大、そして賃上げを背景とした公共工事設計労務単価の見直しにより、土木工事全般にわたって工事費の押し上げ圧力が続いています。
斜面防災分野においても例外ではなく、道路のり面や急傾斜地対策、地すべり対策として多用される地山補強土工(鉄筋挿入工)および地すべり抑止杭工でも、令和6年度から令和8年度にかけて、積算基準の改定も加わり、工事費が増加する結果となっています。
2.地山補強土工(鉄筋挿入工)の積算動向
地山補強土工(鉄筋挿入工)の積算は、標準的な現場条件においては土木工事市場単価が広く用いられています。市場単価は、現場条件・削孔径・削孔長・足場条件などに応じた区分ごとに設定されており、多くの法面工事現場ではこの市場単価をベースに概算工事費が算出されます。
2-1.市場単価の適用範囲と令和8年度の単価上昇
土木工事市場単価(鉄筋挿入工・ロックボルト工)の適用条件は以下のとおりです。
| 現場条件 |
足場種別(削孔時) |
法面垂直高 |
削孔長 |
削孔径 |
| T:重機搬入可能(クレーン式ドリル等) |
なし(挿入時はロープ足場) |
30m以下 |
1〜5m |
42〜65mm |
| U:仮設足場(単管足場)または土足場 |
仮設足場・土足場 |
40m以下 |
1〜5m |
42〜65mm |
| V:ロープ足場 |
ロープ足場(命綱) |
40m以下 |
1〜2m |
42〜50mm |
令和8年度においては、この市場単価や資材単価、燃料費等が上昇しており、令和6年度比で約7〜25%の上昇が確認されています。以下に標準的なモデルでの試算比較を示します。
【試算条件】
- 鉄筋挿入工:現場条件U、ピッチ1.5m×1.5m、11段、削孔長L=3.0m
- 鋼材:SD345、D19、メッキ付き(ネジ節異形棒鋼)
- のり面工:吹付のり枠工 300×300、D13
施工10m当たりの直接工事費比較
| 工種 |
令和6年度 金額(千円) |
令和8年度 金額(千円) |
増減額(千円) |
増減率 |
| 鉄筋挿入工 |
4,569 |
4,845 |
+276 |
+6.0% |
| のり面工 |
6,007 |
6,501 |
+494 |
+8.2% |
| 工事費計 |
10,576 |
11,346 |
+770 |
+7.3% |
内訳を見ると、鉄筋挿入工の市場単価(現場条件U)が11,400円/m → 12,200円/mへ上昇しているほか、足場工単価(4,760円/空m³ → 5,100円/空m³)、注入材料(セメントミルク:36,900円/m³ → 40,344円/m³)、削孔機械の上下移動費(20,200円/回 → 21,600円/回)なども軒並み上昇しています。のり面工(吹付のり枠工)においても6,007千円から6,501千円へと増加しており、工事費全体を押し上げています。
2-2.市場単価が適用できない場合 ――積算マニュアルの活用
一方、以下のような条件に該当する場合は市場単価の適用外となり、歩掛に基づく積算が必要になります。
- 自穿孔材による施工の場合
- 逆巻き施工の場合
- 土質が硬岩・玉石混土を含む場合
- 削孔後に孔壁が自立しない場合
- 削孔長が5mを超える場合、または削孔径が市場単価の適用範囲外の場合
- 夜間作業の場合
このような適用外条件に対応するための積算根拠として位置づけられているのが、一般社団法人 全国特定法面保護協会が令和7年6月に発行した「地山補強土工(鉄筋挿入工)標準積算マニュアル」の改定版です。
本マニュアルは、平成27年発行の「ロックボルト工積算資料(参考)」および「ロックボルト工積算例(参考)」を統合・発展させたものであり、積算例を含めて1冊に整理されています。市場単価が適用できない多様な現場条件――削孔径42〜90mm、削孔長7.0mまで――に対応した歩掛が掲載されており、特殊な施工条件における積算の根拠資料として活用されるものです。
旧版(平成27年度版)からの主な改定ポイントは以下のとおりです。
@ 実働時間の変更
旧版では削孔機械の1日当たり実働時間を7.0h/日としていましたが、新版では6.4h/日に改定されました。この変更はほぼすべての歩掛・単価に影響を及ぼすため、市場単価適用外の積算を行う場合には注意が必要です。
A 削孔機械ごとの補正係数の新設
削孔長、施工規模、狭隘条件、逆巻き施工、機械規格など、現場条件に応じた施工効率の補正係数が削孔方式ごとに新たに設定されました。対応する削孔方式は以下のとおりです。
- さく岩機
- バックホウ式ドリル
- クレーン式ドリル
- ボーリングマシン(軽量型)
- ボーリングマシン(ロータリーパーカッション式スキッド型)
B 用語の整合
「地山補強土工 設計・施工マニュアル(公社 地盤工学会・平成23年8月)」に準拠し、名称・用語が全面的に更新されました。
市場単価が適用できる標準的な現場においては、まず最新の市場単価を用いた工事費積算を優先しつつ、適用外条件が生じる場合には本マニュアルを参照した歩掛積算を行うという、二段構えの積算対応が実務上の基本姿勢となります。
3.地すべり抑止杭工の積算動向
3-1.積算基準の改定 ――ダウンザホールハンマ工は工事費UP
地すべり抑止杭工においては、「令和8年度版 国土交通省土木工事積算基準」に従い積算します。令和6年度から令和8年度にかけての工事費増加率は工法によって大きく異なり、以下のようになっています。
| 工法 |
工事費増加率 |
| 大口径ボーリングマシン工 |
約11%増 |
| ダウンザホールハンマ工(鋼管) |
約25%増 |
| ダウンザホールハンマ工(H形鋼) |
約80%増(最大) |
大口径ボーリングマシン工については積算基準の改定はなく、各種単価上昇の影響を受けた結果です。一方、ダウンザホールハンマ工については積算基準そのものが改定されており、増加率が大きくなっています。特にH形鋼の場合、設計杭径430mm以上において削孔径がワンランクアップとなったことが主因であり、さらに以下の要因が重なって増加率が最大80%に達しています。
- 準備・建て込み歩掛の工数アップ
- 充填歩掛の工数アップ
- 土質ごとのビット等損耗費の新規導入
- 諸経費率の見直し
鋼管についても同様の基準改定が行われており、約25%増となっています。
3-2.積条件次第で工法比較選定が必要 ――大口径ボーリングマシン工 vs ダウンザホールハンマ工
抑止杭工における工法選定は地盤条件によって異なりますが、積算においても工法の選択が工事費に直結します。以下に標準的な試算条件での比較を示します。
【試算条件】
- 杭材:SKK(SM) 490材
- 鋼管:外径500.0mm × 肉厚50.0mm
- 杭長:L=19.5m
- 削孔区間:0〜10m(軟岩T)、10?19.5m(硬岩)
- 足場等の仮設工は含みません
杭1本あたりの直接工事費比較
| 費目 |
大口径ボーリングマシン工(千円) |
ダウンザホールハンマ工A工法(千円) |
差額(円) |
| 労務費 |
1,166 |
416 |
△750 |
| 材料費 |
3,974 |
3,974 |
0 |
| 機械運転費 |
481 |
795 |
+314 |
| ビット等損耗費 |
1,318 |
674 |
△644 |
| 諸雑費 |
461 |
248 |
△213 |
| 合計(杭1本当たり) |
7,401 |
6,550 |
△851 |
| 増減率 |
− |
− |
▲11.5% |
本試算条件では、ダウンザホールハンマ工の方が約851千円/本(約11.5%)安価となっており、施工方法※1および仮設費しだいでは、ダウンザホールハンマ工が最適となるケースがあります。
一般的な工法選定の考え方は以下のとおりです。
| 地盤条件 |
推奨工法 |
| 地下水が高く、移動土塊が軟らかい場合 |
大口径ボーリングマシン工(孔壁保護が必要) |
| 地下水が低く、岩盤が硬い場合(孔壁自立可能) |
ダウンザホールハンマ工(工費低減の可能性あり) |
工法の適用判断は地盤条件および施工条件を十分に把握したうえで適切に行うことが、非常に重要です。
※1:ダウンザホールハンマ工の施工方法
掘削箇所へのクレーン搬入かつ設置の可否、掘削場所が傾斜地かつ作業架台の要否により、A工法(クレーン工法)、B工法(大口径ボーリングマシン工法)、C工法(テーブルマシン工法)を選定する。
4.実務への影響と対応のポイント
今回の積算基準改定・単価改定が実務に与える影響を整理すると、以下の点が特に重要です。
@ 概算工事費の正確な把握
令和8年度単価は令和6年度と比較して数%〜最大80%の工事費増加が生じています。最新単価での概算工事費算出が欠かせません。
A 市場単価の適用可否をまず確認
地山補強土工(鉄筋挿入工)においては、まず土木工事市場単価の適用可否を確認することが出発点となります。適用外条件が生じる場合のみ、最新の積算マニュアルに基づく歩掛積算を行います。
B 工法比較による経済比較
抑止杭工においては、ダウンザホールハンマ工と大口径ボーリングマシン工の工事費差が地盤条件によっては大きくなるため、両工法とも採用可能な場合には、経済比較を行うことが望まれます。
5.設計計算ソフトを活用した効率的な積算
今回取り上げた地山補強土工(鉄筋挿入工)および地すべり抑止杭工の積算は、単価改定・基準改定が重なったことにより、手作業での対応はこれまで以上に煩雑になっています。最新の歩掛・単価・積算基準に対応した設計計算システムを活用することで、設計から積算まで一貫した精度の高い業務遂行が可能になります。
五大開発(株)が提供する「切土補強土工法計算システム 補強土」(Ver.16)および「地すべり抑止杭設計計算システム 抑止杭」(Ver.15)は、いずれも令和8年度の最新単価・積算基準に対応したバージョンが2026年7月にリリースされています。市場単価による概算工事費の算出はもちろん、市場単価適用外条件における歩掛積算への対応、抑止杭工における削孔工法の概算工事費比較機能など、実務における積算業務の効率化に貢献する機能が充実しています。ぜひ活用をご検討ください。
参考リンク
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