2026年7月7日から10日にかけて、第61回地盤工学研究発表会が静岡市のグランシップ静岡で開催されました。参加者は2,000人を超え、技術展示には75の機関・企業が出展するなど、会場は大いに賑わいました。研究発表はもちろん、企業の技術展示や一般の方向けのイベントなど、幅広い催しが行われました。また本年度からは、開催地の小・中・高校生を対象とした技術展示見学が始まり、各企業が趣向を凝らした説明で、地盤工学の面白さを次世代に伝えていました。
開催日:2026年7月7日(火)〜10日(金)
会 場:静岡県コンベンションアーツセンター/グランシップ
URL:https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jgs61
筆者は主に研究発表の会場を回りましたが、どのセッションでも活発な発表と質疑応答が交わされ、多くの会場で立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。ここでは、聴講した中から特に印象に残った発表を、セッションごとに振り返ってみたいと思います。
本セッションでは、透水試験から最先端の数値シミュレーションまで、多角的なアプローチによる8件の発表が行われました。
本セッションで特に印象に残ったのは、地盤の中を流れる水が細かい土粒子を侵食する「内部侵食」を扱った2件の発表です。内部侵食は、河川堤防の決壊につながる「パイピング破壊(堤防の下に水みちができる現象)」などの引き金となりますが、外からは見えないところで進行するため、そのメカニズムにはいまだ不明な点が多く残されています。
一つ目は、水の流れを解くCFD(数値流体解析)と、土粒子一つひとつの動きを追うDEM(個別要素法)を組み合わせ、内部侵食の一種である「Suffusion(サフュージョン)」を数値解析で再現した研究です。解析では、粗い粒子の隙間を縫う複雑な水の流れが再現され、局所的に流れが速くなる場所で細かい粒子が勢いよく動き出す様子が確認されました。これにより地中で起きているSuffusionの再現を達成したと発表では締めくくっていました。
もう一つは、粗い粒子と細かい粒子が混ざった地盤内の水の流れを、精密に解いた研究です。この種の解析では、細かい粒子の直径のさらに30分の1という極めて細かい計算メッシュが必要となり、計算コストが爆発的に増大します。そのため従来の研究の多くは、メッシュを粗くしたり近似(粗視化)に頼ったりせざるを得ませんでした。この研究では粒径の比を正確に扱った高精度解析を実現し、今後の簡易モデルの妥当性検証(バリデーション)に使える貴重なデータの作成に成功しています。
浸透水と土粒子の動きを同時に解くことは、計算コストの面で非常に困難な課題です。しかし近年の計算資源の進歩により、ここまで高精度な解析が可能になったのかと驚かされました。これまで手の届かなかった数値解析が、今後次々と実現していくのでしょう。
本セッションでは、斜面災害リスクの広域評価から、実物大の斜面崩壊実験、ドローンを使った現地調査の効率化まで、豪雨災害に立ち向かう最前線の研究8件が発表されました。
南九州に広く分布する「シラス」は、火山の噴出物が堆積してできた地盤で、雨に削られやすく(表面侵食)、斜面崩壊につながりやすいという弱点を持っています。この表面侵食を「竹セルロースナノファイバー(竹CNF)」という材料で抑え、災害リスクの低減につなげようという研究発表が行われました。竹CNFとは、竹由来のセルロースをナノメートルのレベルまで細かくほぐした繊維状の材料で、放置竹林という未利用資源を活かせる点でも注目を集めています。
人工降雨などを用いた実験の結果、竹CNFを混ぜたシラスでは雨水が地表を流れにくくなり、雨滴による侵食を軽減できることが示されました。一方で、斜面の崩壊形態や侵食の進行速度への影響はこれからの検討課題とのことです。
本ディスカッションセッションでは、DEM解析やX線CT、機械学習などを駆使した18件の意欲的な発表が行われました。その中でも、DEMを用いた数値解析に関する発表が目立ちました。筆者が特に印象深く感じた、DEMによる大規模地すべりシミュレーションの研究を紹介します。
地すべり防災では、崩壊した土砂がどこまで到達し、どの範囲に広がるかの予測がきわめて重要です。DEMは土砂の挙動を粒子レベルで追跡できる強力な手法ですが、粒子同士の相互作用をすべて計算するため、計算コストが極めて高くなります。そのため従来の研究では、粒子を粗くし、地表は土砂の流動で削られないという仮定のもとでモデル化されてきました。しかし実際の地すべりでは、流れ下る土砂が斜面の堆積層を削り取りながら取り込んでいく「土砂巻き込み」が発生し、流動性が大きく変化することが知られています。
この研究グループは、これまでに数十億個を超える粒子を用いたDEM解析を達成しており、その技術資産を活かして、2016年熊本地震で発生した阿蘇大橋地区の地すべりを対象に、土砂巻き込みを直接計算する解析に挑んでいました。解析にはスーパーコンピュータ「富岳」や地球シミュレータが用いられているとのことで、計算科学の最先端が地盤工学の分野でも存分に活用されていることに感銘を受けました。
来年度の地盤工学研究発表会は、奈良県コンベンションセンター(奈良市)での開催が予定されています。興味を持たれた方は、ぜひ参加を検討してみてはいかがでしょうか。
▽公益社団法人地盤工学会
https://www.jiban.or.jp/
▽「(公社)地盤工学会「第60回地盤工学研究発表会」参加レポート」(2025.07.31)
https://isabou.net/Convenience/Tool/report/20250731.asp